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「後から聞けば、先生は中学生の頃から貧血で倒れた事があったそうで、77歳の今も年に1回位倒れるとおっしゃった。ある日、銀座で個展をされている先生と歓談後、帰路につき、先生と私は有楽町線に乗った。急に気分が悪くなったのか『僕は降りて休んで行く』とおっしゃった。私は慌ててホームに降り、ふらつく先生の手を取った。夜10時の護国寺のホームは降りる人もなく、ベンチは20m位先にあって、先生は目の前にある円柱に身を寄せて『ここで休む』とおっしゃったので、私は左腕を支えて立っていた。あっ! という瞬間、二人は腕を組んだまま、仰向けに倒れた。ばたんという感じだったが、頭は打っていたかった。 駆けつけた駅員は、アルコールのせいではないとわかると、車椅子に乗せて、二階の『忘れ物一時預かり』の部屋の片隅にあるベットで休ませた。貧血が元に戻るまでの90分は旅の終りの気分に似て、少し疲れた。」(作家コメント「90分の旅」『版画年鑑1999』阿部出版より)
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