コメント
「キャフェの外の向うの地面に、ハガキ大の紙屑が一枚風に動いている。少しずつ少しずつ四五十分の間こっちに靡きあっちに転がりして七八平方m内を行ったり来たり。ただそれだけの光景である。ところで私よりも前から近くの席に座っていた中年婦人も多分それを見ていたようだ。それが、何かを思い出したのかふっと立ち上がり、私の方に微笑みを送りながら出て行った。あ、あの女は揺れている紙屑に何を見ていたんだ? 不意にこんな気がすると、彼女の微笑みの意味が私を捕らえた。紙屑は続けて動いているのに、今まで鮮やかに見えていたものは消えている。もしかして、あの女がさらって行ったのだろうか。私の純粋持続は破れてしまい、忘れていた用事が思い出されて、私も席を立った。」
(李 禹煥 画文集『東の扉』「紙屑」より)
略歴
作品紹介
関連書籍