コメント
「稟として良く晴れた晩秋の朝などに、研ぎ澄まされた刃先が冷たく光っているスクレーパーを仕事台の上に見つけてしまったりすると、いやがうえにも制作意欲をそそられるのか、そのまま昨日の仕事の続きを始めている自分に気付くことがある。ついこの間までぎらぎらと容赦もなく太陽の照り燿やいていた夏だった筈なのに、この静けさは何だろう。私は、こんな瞬間が好きだ。 冬の朝の銅版は冷えきっている。手元も暗く版も硬過ぎる。けれども障子を外すと、意外にも家の前の駐車場から大嫌いな車のフロントガラスの反射光線が、きらりと太陽の暖かみを伝えて来て、春の近さを思わせる。こんな瞬間も案外好きだ。 この微かな時空を大切に、版に刻めたら、と日記をつけるように毎日版を彫っている。 1999年 秋」(作家コメント「わたしのかたち」『版画年鑑2000』阿部出版より)
略歴
作品紹介
関連書籍