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以来、師森義利は「脱工芸」を目指して涙ぐましいまでの苦闘を展開することになる。(略)型絵染の手法を排した、いわば純正の合羽刷の確立は、師森義利の悲願でもあったのだろう。
こちらとしては、さしたる考えもなしに合羽刷の可能性を模索し続け、ようやく手法としての基盤を整えた感を得るまでに40年近くを費やしていた。その原理は前述の通り、和紙に切り抜いた穴を通して絵の具を刷り込む、という単純なもの。つまりは穴の形で描く、ということに尽きるのだが、この単純さがじつに奥が深くて難渋させられる。
たかが穴されど穴と、型紙相手に苦労するうち、自他共に認める不徳の弟子の私が、いつの間にやら師命を全うすることを生涯の課題としてしまっているあたり、伝統的な徒弟性の持っている深みというものがあるのかも知れない。
(版画芸術158号 フォーカス・アイ 「純正合羽刷の復興」より)
略歴
1952年に生まれる。
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