コメント
「私の家は徳川時代の初めから代々江戸に定着している。私自身も東京で生れて育ち、およそ30年前神奈川に居を移すまで東京以外の生活の経験がない。大正の大震災のあとに生れた私の中には、江戸以来の重厚な東京は存在しない筈だが、それでも第二次大戦が勃発するまでは、謙譲と秩序と礼節の存在する東京が生きていたように思う。1945年、日本が総てのものを失って焼土となったとき、田舎というものをもたない私は、これが自分が生れ、これから永い人生の心の支えとなるべき故郷なのかとただ呆然自失の状態になった。以来私はものに憑かれたように東京を隅から隅まで歩き廻って、やがて思いついたのが、これまでただ鑑賞するだけであった木版画という手段で自分なりの故郷の心象風景を記録することであった。つまりこれが私の仕事のかたちなのである。」
(作家コメント「変わりゆく故郷」『版画年鑑2000』阿部出版より)
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