コメント
「その形は突然僕の前に現れたような気がする。それも随分と前に。そのときはスケッチブックになぐり描き程度だったが、制作の中で幾度と脳裏をかけ巡るその形は、いつしか白い紙の上で、自分自身の<意思>で歩き始めていた。絶えず形を変え、その動きによってのみその存在を示す。宇宙の理を人間が見い出せなかったように、僕のモチーフ<風、水>も決してその正体を見せてはくれない。ただ黙々と地上と空の間を行き来し、気まぐれに僕とチャンネルを合わせるにすぎない。この地表に縛られる人間は、太古の昔よりこの流体物を恐れ、驚き、楽しんできた。そしてうっかり僕に捕ってしまったこのものたちは、悪びれることもなく、この小さな空間の中で遊んでいてくれる。今、僕にできることは硬質な金属版のフィルターを通じて、それらを記録し続けることだろう。――ある日、忽然と姿を消して、どこかへ行ってしまう前に――。」(作家コメント「わたしのかたち」『版画年鑑2000』阿部出版より)
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